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優秀な人材流出防ぐためにシリコンバレーの企業は働き方を選べる時代に。 大石岳志氏

アメリカのIT企業の最大手は、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社で、その頭文字を取って「GAFA(ガーファ)」と呼ばれています。中でもトップに挙げられるグーグルに11年間勤務する大石さんは、社員の立場から見たグーグルを「自由でゆとりある会社」と表現します。完全な在宅勤務を選択したことで、最近まで2年間日本から働いていたという大石さんに、日本滞在で見えてきた日本の良い点と気にかかる点、そして日本の若い人たちに伝えたいメッセージについて伺いました。
優秀な人材流出防ぐためにシリコンバレーの企業は働き方を選べる時代に。

開志専門職大学

大石さんの現在のグーグルでのお仕事を教えてください。

大石岳志

2年ほど前からクラウドサービスの部門で働いています。

開志専門職大学

最近よく聞く、「クラウド」とは何ですか?

大石岳志

グーグルが持っている巨大なコンピューターを、クライアントである企業に仮想的にレンタルするサービスです。

大石岳志

例えば、お客さんがAIのリサーチに関わろうとしている場合、サーバー、ネットワーク環境、アプリのような、そのリサーチに必要なものを準備しないといけません。自社で購入して設置すると莫大な費用が発生します。そこでグーグルの設備や環境やアプリを貸し出して利用してもらうのです。サービスの名称は「グーグルクラウド」です。

開志専門職大学

「グーグルクラウド」での大石さんのお仕事とは?

大石岳志

グーグル側とクライアントの企業側とをつなぐ仕事で、テクニカルプログラムマネージャーという肩書きです。

大石岳志

この「グーグルクラウド」はクラウドの業界での順位は3位です。7、8年前からサービスを開始しています。

開志専門職大学

ところでグーグルで働き始めてから何年になるのですか?

大石岳志

11年になります。

開志専門職大学

グーグルと言えばシリコンバレーの巨大IT企業ですが、社員である大石さんから見てどんな会社ですか?

大石岳志

働きやすいですよ。会社に余裕があるので社員にも自由が与えられているように感じますね。自由というのがアメリカの良いところですから、まさにグーグルの会社風土は自由だと思います。組織としての風通しも良いです。

開志専門職大学

コロナ禍の前と現在で働き方は変わりましたか?

大石岳志

以前は常に会社で働いて、周囲のメンバーと密にコミュニケーションを取る働き方だったのが、コロナ禍で方向転換し、完全なリモートワーク、ハイブリッドで週に2日か3日はオフィスに行って働くなど、社員が働き方を選べるようになりました。

開志専門職大学

大石さんはどういう働き方を選択したのですか?

大石岳志

100%家からです。会社のサッカーチームに入っているので、会社に行くのはサッカーする時だけ(笑)。

開志専門職大学

今後もシリコンバレーの企業は、そのように必ずしも出勤しなくて良い流れになっていくのでしょうか?

大石岳志

そうだと思います。コロナ禍になって最初にスクエア、それからセールスフォースなどの企業が自由な働き方を提示しました。グーグルはその次くらいだったと思います。人々が「家から働きたい」と思うようになると、オフィスに出勤しなくてはいけない会社から優秀な人材が流出します。ですから、今後もこの傾向は続いていくと思いますね。

選択肢を与えてくれる自由な会社風土が魅力。シリコンバレーに籍を置きながら日本から在宅勤務。

開志専門職大学

大石さんもサッカーさえなければ会社には行かないのですか?

大石岳志

そうですね(笑)。実は最近アメリカに戻ってきたのですが、それまでの2年間、日本から働いていたんですよ。

開志専門職大学

そうだったのですか!

大石岳志

はい、会社の近くにいる必要がなかったので。でもベースはここ(シリコンバレー)に残していました。

開志専門職大学

完全に日本に引っ越す計画はないのですか?

大石岳志

日本に引っ越す可能性はないですが、実はロサンゼルス辺りには引っ越したいなと思っていて、ちょっと考え中です。

開志専門職大学

そのように、今はどこに住んでいても働けるようになっているのですね。驚きました。それではお仕事自体のお話に戻させてください。

大石岳志

実はちょっと今悩んでいまして。

開志専門職大学

どういうことですか?

大石岳志

今は8人くらいのチームを束ねるマネージャーなんですが、もっと現場の仕事ができる専門職に変わりたいと思っているんです。

開志専門職大学

一度管理職に進んだ人が、専門のお仕事にも変われるんですか?

大石岳志

個人の希望で選べます。マネージャーだとチームのプロジェクトの進捗状況を確認することが重要なんですが、専門職だと自分の仕事に没頭できます。そちらの方が自分には向いているのかなと考えています。会社側は働き方だけでなく、管理職か専門職かの選択肢も与えてくれます。そういう意味でもうちの会社は自由だと思いますね。

開志専門職大学

そうなんですね。大石さんはグーグルの前にも他のIT企業で働いていたのですよね?海外で働き始めて何年になるのですか?

大石岳志

働き始めて17年くらいです。学生としてシアトルで2年、フロリダで5年ほど過ごして、卒業後に日本で就職してから海外に出ました。

希望通りのキャリアを進むためには能力を磨き実力を証明しなければいけない。

開志専門職大学

大石さんにとって海外で働く醍醐味とは?

大石岳志

繰り返しになりますけど、「自由である」ということが一番僕にとって魅力です。あと、自分で選べる選択肢の多さですね。でも、同時に自由であるということは、それを享受するための能力も常に磨かないといけないということでもあります。

開志専門職大学

どういうことですか?

大石岳志

自由に、自分が望むように先に進むためには、能力を磨いて実力を証明しなければ次に行けないのです。そのプレッシャーは常にありますね。

開志専門職大学

日本だとそうではない?

大石岳志

僕が思うに、日本では「そろそろ管理職になる時期だ」という結論が先にあって、管理職になってからその仕事に慣れるというイメージです。一方、アメリカでは、管理職になる実力が備わっていないとその肩書きは獲得できません。

開志専門職大学

即戦力でないと昇進できないのですね?

大石岳志

そうです。新人の採用であっても即戦力が求められます。新人研修など存在しませんから。

開志専門職大学

自由と引き換えにプレッシャーも大きいということなのですね。ところで、大石さんがグーグルに転職した時のお話を聞かせてください。

大石岳志

電話のインタビュー(面接試験)がすごくて、それが2回あったんですが、最初1時間インタビューされて、そこから2週間待たされました。

開志専門職大学

2回電話でインタビュー? 大変ですね。

大石岳志

その後、「会社に来てください」と言われて、今度は丸1日、取っ替え引っ替え、いろんな人から面接されました。質問責めにあって頭が爆発しそうになりました(笑)。

開志専門職大学

それを乗り越えて入社したのですね。

大石岳志

事前に面接の練習を繰り返しました。友達や家族を相手に、想定質問に答える練習です。

開志専門職大学

どういう内容を想定したのですか?

大石岳志

自分のアピールポイントをいかに伝えるかということです。エンジニア職として、お客さんが抱えていた問題を自分が解決して感謝されたかですとか。採用されたら、会社にどのような貢献ができるかを訴えるような感じですね。

日本のおもてなし精神に感動。一方で「ノー」と言えない非効率性に疑問も。

開志専門職大学

それで晴れてグーグルに入社されて11年、大石さんのお仕事の上でのゴールとは?

大石岳志

まずは基本的なことですが、自分の与えられた仕事をきちんとやってお客さんをハッピーにしたい、それをやり続けることですね。

開志専門職大学

とてもシンプルですね。

大石岳志

あとは、仕事だけではなく、今後は自分自身の時間も大切にしたいと思っています。

開志専門職大学

先ほどのお話だと2年間、日本からお仕事をされたということですが、ご自分の時間を楽しまれましたか?

大石岳志

とっても楽しかったです。日本はなんて住みやすい国だろうと改めて実感しました。

開志専門職大学

どういうところが住みやすいと思ったのですか?

大石岳志

まず、ご飯がおいしい(笑)。それにどこに行くにも電車が通っていて便利です。留学でアメリカに出るまでは大阪に暮らしていたのですが、それまでは自転車で移動できる近所しか知らなかったんです。でも今回、大人になって日本を回ってみて、お寺を巡って歴史を感じて日本の美しさに触れることができました。

開志専門職大学

日本を再発見したのですね。

大石岳志

感動しましたね。長いアメリカ生活で完全にガイジンになっているので(笑)。

開志専門職大学

ガイジンの大石さんから見た日本人は?

大石岳志

とっても丁寧です。コーヒーショップも1、2回行くと顔を覚えてくれていて、同じものを出してくれることに驚きました。ホスピタリティーの精神が素晴らしいですね。

開志専門職大学

おもてなし精神ということですね。

大石岳志

でも、一方で悪い点も目に付きました。

開志専門職大学

どういう点ですか?

大石岳志

日本人は面倒な要求を受け入れて時間をかけてやってしまうという点です。例えば、お客さんが「特別にこうしたい」といった要求をしてきたら、それを日本人は文句など一切言わずに受け入れてやってあげます。

大石岳志

一方、アメリカの企業では自分たちが提供できる枠組みの中でしかサービスを提供しません。特別なことをしてしまうと、それだけお金がかかってしまうからです。

開志専門職大学

日本のサービスは丁寧だけれど合理的ではないということですね。

大石岳志

そうです。もっと量をこなせる同一のサービスにシフトした方が、企業に利益が出るはずです。確かに丁寧さは日本人の良いところなのですが、もっと効率化できる部分があるように思います。効率化できれば、残業が多くて終電で帰るような人が減るのではないですか?

大石岳志

さらに言えば、日本の企業は効率化ができていないから、何十年経っても給料が上がらないのだと思います。個人の幸せのために、まず会社が利益を上げないといけません。

開志専門職大学

日本人は「ノー」と言わずに受け入れてしまうから効率的ではないということでしょうか。

大石岳志

それが美徳でもあるのですが、確かに「ノー」と言えないことが一番の問題かもしれませんね。受け入れてしまうことが日本の文化に根強くあるから、難しい問題だとは思います。

自分とは違う考え方の人と話す機会を持ってほしい。新しい視点との出会いが未来を切り拓く。

開志専門職大学

さて、これから大学生になる人に、大石さんが学生時代にやっておくべきことをアドバイスするとしたら?

大石岳志

コンピューターには絶対関わっておいた方がいいです。別にそれを専攻にするとかでなく、使い方だとか、どういうものがあるのかとか、基本的なITの知識を身に付けておくことをお勧めします。

開志専門職大学

これからの必須のスキルということですね。

大石岳志

あと、自分とは違う考え方の人と話す機会をできるだけ持つようにしてほしいです。

開志専門職大学

同じ考え方の人で固まらない?

大石岳志

自分の常識にないことを教えてくれる人がいたら、それをきっかけに世界が変わることもあります。自分の常識は狭い範囲で出来上がったものかもしれません。疑ってみるべきです。自分の常識にしがみついてはいけません。

大石岳志

新しい考えと出会って、自分も挑戦してみようと思うことは素晴らしいことです。私の場合はそれが良い方に転がっていったパターンです。でも、毎回、きちんと自分の頭で考えて判断を下すことが重要です。

開志専門職大学

海外に行くのも新しい機会になりますね。

大石岳志

そうです。外国に旅行に行ってみるのもいいし、しばらく住んでみるのもいいでしょう。ある人に以前言われたのですが、旅行するだけだとあくまでお客様なので、住んでみないと本当のことは分からないということもあると思います。住んでみて初めて見えることもあります。

開志専門職大学

最後に、開志専門職大学での特別講義で何をお話しいただけるのか、少しだけ教えてください。

大石岳志

日本の若い皆さんを勇気付けるようなことをお話ししたいと思っています。僕が若い時、アメリカでこうして働いていることは想像もできませんでした。スポーツは得意だったけれど県体や国体に行くほどではなかったし、勉強も得意というわけではありませんでした。いつもフラフラしていて、将来に不安を感じていました。だからこそ、これからの皆さんには勇気を与えたいです。

大石岳志

皆さんには、今の僕と違って「これからの時間」という大きな財産があります。やりようによっては、僕よりずっと大きなことができる可能性があります。だから、僕から一方的に教えるという講義ではなくて、「遠くまで行けるよ」というメッセージを伝えるつもりです。

グーグルクラウド テクニカルプログラムマネージャー
大石岳志氏

大阪府生まれ。1999年、ユニバーシティー・オブ・セントラルフロリダを卒業後にシステムエンジニアとしてシスコシステムズ・ジャパンに入社。東京で勤務した後、希望を出して米国のCisco Systemsに移籍。2011年にGoogleに転職し、ネットワークエンジニアを経てテクニカルプログラムマネージャーに。カリフォルニア州シリコンバレー在住。

インタビュー:福田恵子

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