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Uberアプリで世界の交通手段をつなげる開発に取り組む。 前田邦夫氏

アメリカの配車サービスの大手、Uber(ウーバー)は、今や世界では人々の生活に欠かせない輸送手段となっています。スマホがあれば、自分がいる場所に登録ドライバーが迎えに来て行きたい場所に連れて行ってくれるという便利さと、事前に料金が分かる透明性で、全世界の利用者は9100万人(同社の2019年公開文書による)に達しています。そのUber社でソフトウエアの開発に携わっているのが、若きエンジニア、前田邦夫さん。アメリカで生まれ育った前田さんが今の仕事を選んだ理由、そして将来の夢、日本人に届けたいメッセージについて、ワシントン州シアトルで語ってくれました。
パソコン1台あればやりたいことができる 場所や費用に制限がないところからコンピュータに引かれた。

開志専門職大学

前田さんのお仕事について教えてください。

前田邦夫

僕はUberというスマホを使って利用できる配車サービスの会社で働いています。そこでの僕の仕事はソフトウエアのエンジニアです。

開志専門職大学

アメリカでは今やUberはとても有名な一種のIT企業ですが、世界ではまだ参入していない市場もありますね。日本ではUber Eatsはすでに有名ですが。

前田邦夫

そうですね。僕が所属しているチームではUber Eatsではなく、Uberアプリを通して世界のさまざまな交通手段をつなげていくための開発に取り組んでいます。

開志専門職大学

前田さんはなぜUberで働くことにしたのですか?

前田邦夫

個人の働きが会社全体に影響を与えることができる、という点に魅力を感じました。

開志専門職大学

どういうことでしょうか?

前田邦夫

個人に権限を与えてくれるということです。新しい開発をする際にも、誰にでも提案できて、それが会社側に認められれば担当できるようになっているのです。

開志専門職大学

組織としての風通しがいいのですね。

前田邦夫

はい、いいアイデアであれば、任せてもらえます(笑)。

開志専門職大学

入社して何年ですか? その前は何をされていたのですか?

前田邦夫

2年と3カ月です。その前は大学生でした。

開志専門職大学

大学ではコンピュータエンジニアリングを専攻されていたのでしょうか?

前田邦夫

そうです。カーネギーメロン大学で(コンピュータエンジニアリング)を専攻しました。

開志専門職大学

専攻した理由は?

前田邦夫

高校時代から理系の科目に興味があったのです。コンピュータの勉強って数学に似ているんです。

前田邦夫

物理や生物など理系の科目がいろいろある中で、数学が最もコンピュータに近いということで専攻を決めたこと、あとはコンピュータの勉強って自分がやりたい放題にできることが魅力でした。

開志専門職大学

やりたい放題?

前田邦夫

はい、例えば、生物にしても化学にしても、研究所という施設が必要でいろいろな研究する素材が必要で、費用的にも時間的にもハードルが高いです。

前田邦夫

でも、コンピュータならパソコン1台あれば、自分の目の前でやりたいだけやれる、そういう意味です。

開志専門職大学

なるほど、極端に言えば、パソコン1台あるだけで無限に取り組める、ということですね。

前田邦夫

いいえ、極端な話ではなく、それは事実なんですよ(笑)。それに子どもの頃から問題を解決すること、身近な例だとパズルを解くことも好きでしたから、向いているのかなと思いますね。

現地校以外に毎週土曜に通った日本語の補習校 そこでしか会えない友達に会うため、卒業まで通い続けた。

開志専門職大学

ところで、前田さんは日本からアメリカに渡ったのではなく、もともとアメリカのお生まれだとか? どちらの出身ですか?

前田邦夫

ニュージャージー州です。両親が日本生まれなので僕は二世です。

開志専門職大学

日本語がお上手ですが、ご両親との会話を通して習得されたのですか?

前田邦夫

僕の母親が特に家庭内では日本語を話すことを徹底していました。子どもの頃は面倒くさいと思うこともありましたが、今は、その母の教育方針にとても感謝しています。家庭以外でも補習校には通っていました。

開志専門職大学

週末の日本語補習校ですか?

前田邦夫

そうです。現地校以外に通う、土曜に日本語で勉強する学校です。結構、皆、途中でやめてしまうんですよね。

開志専門職大学

現地校以外に通って、補習校の宿題もあるでしょうから大変ですよね。

前田邦夫

宿題なども真面目にやっていたかというとそうでもないんですけど(笑)、でも、何と言っても「補習校に行かないと会えない友達」の存在が、続けるモチベーションになりました。

開志専門職大学

お母様も背中を押したのでは?

前田邦夫

実は、僕の母は日本語補習校の幼稚園の先生でした。父は同じ補習校の高校で教えていました。

開志専門職大学

それはプレッシャーでしたね。

前田邦夫

下から上に上がるまで、親にしっかり支えてもらっていたんです(笑)。

開志専門職大学

ということは補習校、最後まで通ったんですか?

前田邦夫

そうです。高校まで通って卒業しました。

開志専門職大学

それは素晴らしいですね。その結果、バイリンガルになれたということですね。

前田邦夫

でも、最近は日本語をもっと意識的に頑張らないと、と思っています。職場では、日本のチームの人とやりとりする機会があるくらいなので。

前田邦夫

例えば、日本語上級者がさらなる上達を目指せるような(日本語の)クラスに参加したいです。

開志専門職大学

今までのお話から察するに、日本で生活されたことはないんですか?

前田邦夫

長くて1カ月ほどです。日本に行ってもあくまで旅行者感覚ですね。

開志専門職大学

ということは、自分のことをアメリカ人だと認識しているということですか?

前田邦夫

いいえ、僕は自分を日本人だととらえています。日本人の家庭で育ちましたから。家庭の中が小さな日本で、家の外に出たらそこはアメリカだ、という感覚でした(笑)。

開志専門職大学

ご自分のことを「日本人だな」と実感するのってどんなときですか?

前田邦夫

日本の人と仕事をしているときに良い点だと感じるのが、「相手を尊重する」ということです。そういうところが自分の中にもあるのではないかと思います。

自分のやりたいことができるUberを就職先に選んだ この会社で世界にインパクトを与えられる仕事を手掛けたい。

開志専門職大学

日本語と英語の環境の中にいた子ども時代、前田さんはどんなことに熱中していましたか?

前田邦夫

スポーツやゲームです。野球にも熱中したし、高校時代は陸上競技の長距離の選手でした。陸上以外にもバイオリンも弾いていました。今でも趣味で弾きます。

開志専門職大学

素敵な趣味ですね。

前田邦夫

僕の妻がピアノを弾くんです。でも彼女は、音楽で修士号を取ったほど、プロフェッショナルなレベルです。だから、僕のバイオリンは、彼女に比べたら上手ではないので、恥ずかしいです。

開志専門職大学

そういう「恥ずかしさ」を感じるところが日本人的なところですね。

前田邦夫

そうかもしれません(笑)。

開志専門職大学

将来は何になろうと考えていたのでしょうか?

前田邦夫

小学生のときはサッカー選手や野球選手に憧れていました。しかし、それ以降は特に具体的に考えたことはなかったです。でも、高校で理系に興味が出て、結果的にコンピュータの道につながりました。

開志専門職大学

理系の勉強に興味を持つようになったきっかけを覚えていますか?

前田邦夫

アメリカの学校は小学校の段階ではどの生徒も同じレベルの算数の授業を受けます。しかし、4年生くらいから、生徒によってレベルが分かれてくるのです。僕は高校1年のときは、4つレベルがある中の上から2番目にいました。

前田邦夫

そして、どうしても一番上のレベルに行きたいと思って、3年のときに努力してそれを達成したんです。そのときの数学の先生の教え方が素晴らしくて、影響を受けました。

開志専門職大学

数学で頑張って上に行けた達成感と、先生からの影響力が転機になったのですね。

開志専門職大学

そして大学でコンピュータエンジニアリングを専攻し、ITの世界へ。インターンなどは経験したのですか?

前田邦夫

はい、大手のIT企業で経験しました。でも、個人がやれることが限られているように感じたので、そこには就職せず、Uberを選びました。

開志専門職大学

自分のやりたいことがUberでできるはずだと感じたのですね。この会社で何を達成したいと思っていますか?

前田邦夫

世界にインパクトを与えられるような新しいことを手掛けたいと思っています。

自分が身を置く環境の重要性を意識してほしい いろいろな人から多様な価値観を学ぶことがグローバル化の一歩。

開志専門職大学

Uberはアメリカの人々の生活には深く浸透していますよね。例えば、私たちは今日、シアトルの空港からここに来るのに、撮影の機材などもあるためレンタカーを利用しましたが、Uberを利用すべきだったでしょうか?

前田邦夫

Uberでは車のサイズも選べますから、XLを指定すれば十分可能だと思います。運転しなくていいし、駐車場を探す手間もないから本当に楽なんですよ。

開志専門職大学

はい、では次回からは改めます(笑)。

前田邦夫

そうなんです。普段は自分で運転したり電車を利用したりしている人の「考え方」を変えることこそ、最大の挑戦かもしれません。

前田邦夫

それにUberは単なる配車サービスではなくて、デリバリーのUber Eatsなども手がけることで、人々の暮らしを便利にするための取り組みを続けているのです。

開志専門職大学

それでは、大学でコンピュータエンジニアリングを勉強してソフトウエアエンジニアの仕事についた前田さんから、大学生活で取り組むべきことについてアドバイスしてください。

前田邦夫

僕は大学時代の環境が、すごく大切だと思います。自分がどういう場所に身を置きたいかについて意識してほしいです。

開志専門職大学

そこで出会う人も大きな転機になると?

前田邦夫

そうです。僕も大学でいい友達に恵まれました。

開志専門職大学

前田さんの将来の目標とは?

前田邦夫

やはり自分の会社を立ち上げたいです。人の暮らしを豊かにできるようなビジネスを手掛けたいと思います。

開志専門職大学

アイデアはすでにあるのですか?

前田邦夫

いろいろと温めていますが、まだ秘密です(笑)。

開志専門職大学

会社を立ち上げる場所はどこですか?

前田邦夫

ここシアトルがいいと思っています。(自分の将来の会社は)ITには関係してくるはずなので、シアトルは環境的にとてもいいところです。ITといえばシリコンバレーですけど、僕からすると人が多すぎる印象です。

開志専門職大学

やはり環境は大切なんですね。では、開志専門職大学での特別講義でお話ししていただける内容とは?

前田邦夫

二つあります。一つはグローバル的な考え方がなぜ必要なのか、について。もう一つはこれからの世の中を変えていくためにITがどのような役割を果たしていくことになるかについてお話しします。

前田邦夫

また、僕がITでどのような世界を作りたいと思っているかについても触れたいと思います。

開志専門職大学

それはとても楽しみです。最後に日本の高校生にメッセージをお願いします。

前田邦夫

いろいろな人と触れ合い、自分とは異なるいろんな価値観を学んでほしいと思います。アメリカ育ちの僕は、周囲にいろんな国から来た二世の友達がいました。

前田邦夫

アルゼンチンやヨルダン、中国、韓国など。彼らや彼らの親と関わることで、いろんなことを学びました。

前田邦夫

日本の中にいるとそういう機会が少ないかもしれないので、積極的に自分でチャンスを作ったり、海外に出てみたりして、自分とは異なる価値観や背景を持つ人々と交流していただきたいと思います。

特別講師 前田邦夫氏
Uber
ソフトウエアエンジニア

アメリカ、ニュージャージー州で日本人の両親のもとに生まれた二世。カーネギーメロン大学をコンピュータエンジニアリング専攻で卒業した後、Uberにソフトウエアエンジニアとして入社し、シアトルのオフィスに勤務。中国人の妻とシアトル市内に暮らす。将来の夢は「人々の生活を豊かにする」事業を立ち上げること。

インタビュー:福田恵子
撮影・動画:安部陽二

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